例えば、それがキオクだったら…
第一章 記憶の終わり
「………?」

目が覚めた。……の、だろうか?

太陽は、まだ眠っているのかもしれない。

目が開いているのか、そうじゃないのか…

一面の闇のお蔭で分からない。

上へ…手を伸ばしてみる。

消えた。手は、闇の中へ消えた。

「………」

何故だ…。

何故起きたんだ、俺。

寝るのは結構好きで、休日は昼まで寝ているような奴なのに。

ぼんやりと明るい、蛍光色の画面のデジタル時計。

不自然な形の数字で表示される時刻と日付。

どれだけ辺りが暗くても、日付はもう変わっている。

2月3日…。

ご丁寧に、年まで表示してくれてる。

当然、過去でも未来でもない 今を。

時間…まだ2時だ。

そうだな…うん、寝よう。

もう一度。

まだ、時間はあるのだから……―


          *


「ちょっと、そこのおにーさんっ」

「……?」

「おはよ♪」

桐谷 珪(キリヤ ケイ)、高校一年。

通いなれた道ですら迷子になるほどの方向音痴。

「一緒に行ってあげる」

毎朝、幼馴染の姫宮 晴香(ヒメミヤ ハルカ)に声をかけられ、一緒に登校している。

「………」

まぁ、この通り、一言も口を利いたりはしないが。
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