例えば、それがキオクだったら…
       *


「ねぇ、聞いた?」

「…ん?」

いつも、会話の最初の言葉は晴香のものだ。

昼休み、大抵は屋上に居る珪を見つけ出しては、勝手に隣で弁当を食べるのだ。

「噴水公園のう・わ・さ」

そして更に、勝手に話を展開させていくのだ。

「……知らない」

勿論、珪からは碌な返事は望めないが。

「ねっ、教えてあげよっか?」

それでも晴香はニコニコして、楽しそうに話を続ける。

誰も聞きたいなんて言っていないのに、自分が教えたいのか

歌でも唄うような調子で話す晴香。

「…別に」

「そーか、そーかぁ♪教えて欲しいか~」

「………」

微妙な言葉ではあったが、“別に”はどちらかと言うと拒否を表すのでは…?

「仕方無い、私が教えてあげよう」

「……はぁ…」

強引過ぎるくらい強引に話を進める晴香に、呆れたようにため息を吐き

しゃーなし頷いてやる珪。

精神年齢とは、高いと苦労するのだ。


       *


それは、遠い過去の世界。

そして、遠い未来の世界。

全く別であるはずの世界…しかし、その世界はひとつ。

古くに発達し、今、失われてしまった技術。

未だ知り得ぬ、最新とも言えないほどに発達した技術。

その世界には、全ての英知が在する。

そして、全ての生物が息づく世界。

動物…植物…虫…そして、今では有り得ないとされている生き物達。

未来であり、過去である世界…。

決してその世界に訪れることのない、“現在”。

人間とは、愚かな生き物で…無いものを手に入れたがる。

現在を生きる者は、過去や未来を求める。

しかし、完璧である“その世界”に生きる者は、現在を求める…。

叶いもしない夢を追うのと、同じであり、違うこと。



『双方の想いが重なる時…運命の扉は開かれる…』



その世界の名は……―

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