例えば、それがキオクだったら…
       *


「………」

「……?」

言いかけて、晴香の動きが止まった。

「…どうした?」

「その世界の名前は……」

「名前は…?」

二人の間に、沈黙が訪れる。

カップラーメンができるくらいの間をおいて、晴香が口を開く。

「………忘れちゃった♪テヘッ」

「………」

今の“テヘッ”は珪が今まで聞いた中で、最も不快な“テヘッ”だった。

……と、思う。多分…おそらく……いや、絶対。

「ごめんね?」

「……俺、お前嫌だ。」

「ごめ~んっ」

“嫌い”じゃなく、“嫌”になられてしまいましたとさ。

自分で話し始めたくせに、結構重要なトコ抜けてるのは、確かに嫌だろう。

自業自得とは、この時のために作られた言葉かもしれない。


       *


「ごめんっ、珪!今日部活でミーティングあって…一緒に帰れない」

「…別に。そっちの方が、いい」

「ひどっ」

迷子になっても知らないぞ~、などとほざきながら、晴香は走り去る。

放課後。いつもなら、一緒に帰ろうと声をかけてくる晴香。

今日は試合前とあって、部活の方で都合があるらしい。

そのお蔭と言うと、晴香に失礼かもしれないが

珪はいつもより少し軽い気持ちで教室を出た。








< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop