例えば、それがキオクだったら…
       *


「……で?」

「…?」

やっと状況を理解した珪に、女が唐突に話を振る。

「名前。なんて言うの?」

やっと本題に戻ってきたようだ。

「…桐谷……桐谷、珪」

珪は、ぼそっと自分の名を言ってやった。

「ふぅん…カッコいいじゃん?」

女はニッと笑ってそう言った。

珪は、不思議そうに首を傾げる。

「…そうか?」

実際、自分の名前について、どうとか考えたことは無かった。

人に変と言われたことも無いし、特に褒められたことも無い。

正直、はっきり“カッコいい”と言われるのは、悪い気分ではなかった。

「いいと思うよ?…珪」

「……変なヤツ」

女は、「変かなぁ?」と笑った。

純粋に笑っていると、普通の人間の女の子にしか見えない。

ぱっちりした目は、笑うと少したれ目になる。

「…猫みたいだ」と珪が言うと、微妙な表情で

「褒めてるの?」と聞き返してきた。

今会ったばかりなのに、自然に会話ができた。

それが、特に不思議にも感じなくて…本当に、当然のように思えていた。



< 8 / 15 >

この作品をシェア

pagetop