コトノハ 〜この気持ち、何て言うの〜
§ 1 §

*プロローグ



彼女をひいてしまった時は、
目の前が真っ白になった。


――俺――

自動車である―俺―は、
軽くではあるけれど……女の人にぶつかってしまった。


所有者(オーナー)が俺から飛び出して、
彼女の様子を見た。


彼女は『大丈夫です。』と、はにかんだ。


それでも俺は大丈夫じゃなかった。


オーナーも一緒だと思うけど、
人をひいたのは初めてだったから。


「病院連れていこか?」


オーナーが彼女に言った。


「平気です!」


彼女は笑顔で答えた。



初めて見た彼女の笑顔。



「治療費、払うわ。」


オーナーはサイフを取り出した。


「いいえ、いりません。」


彼女は『ケガなんかしてませんから。』と、言った。


彼女は一瞬俺を見た。



…気がする。



「治療費なら、この車にあげてください。

 ……せっかく、格好いいんですから。」


彼女は俺を優しく撫でた。


「へっこんでないかな?

 ぶっかっちゃって、ごめんね。」


そう言って彼女は俺に笑顔を向けた。



彼女の手から彼女の温かさが伝わった。



彼女に見つめられて、
なぜだか胸がドキンと跳ねた気がした。



おかしいな…。



俺に心臓なんてないのにさ―――。


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