死言数
「皆藤、コピー10部取ってくれ。」
部長の声が聞こえてくる。
「はい。」
必要最低限しか話さない。なぜなら、明菜はこの部長が嫌いだ。
学生時代、明菜は容姿の良さから、男子にちやほやされていた。それが当たり前だと思っていた。
なのに、この部長にはそう言うのがいっさいない。明菜に対する態度も、それ以外の社員に対しても、実に横柄だ。自分だけは特別だと思っていた明菜には、それが許し難かった。
「終わりました。」
部長の机の上に、ドサッとコピーを置く。それで終わりだと思っていた。
「なんだ、これ。綴じられてないじゃないか。原本がホチキスで留まってたんだから、コピーも同じように綴じるのが当然だろう?もう一年も同じ事しているんだから、いい加減に言われなくてもやってくれよ。」
一つのミスを見つけると、十倍にして文句を言ってくる。毎日の事だ。
「すみません。」
それだけ言うと、明菜は資料を自分の席に持ち戻った。
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