死言数
今日も同じだ。
目の前にいる男は好みではない。と言うか、嫌悪感すら抱く。
ボサボサの髪に、出っ歯。鼻毛が数本はみ出し、鼻息に揺れている。
<なんだ・・・こいつ・・・。>
明菜が思い描く出会いにはほど遠い。
「なんでしょう?」
「・・・。」
男はうつむき何も言わない。
「用がないならいきます。」
その場から逃げようとした。口臭の臭さに気分が悪くなったのだ。
すると、男は突然明菜の手首を掴んできた。明菜を逃がさないとでも、言わんばかりだ。
鳥肌が立った。そして、叫んだ。
「きゃあああああ。痴漢んんんん。」
一斉に視線が集まる。すぐ側にいた駅員が、男を取り押さえてくれた。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい。この男が・・・急に私の手首を掴んできて・・・。」
そう告げると、男はどこかに連れて行かれた。
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