死言数
オートロックのマンションに憧れていた。
しかし、毎月金欠の明菜がそんな所に住めるわけもない。コーポと聞けば聞こえはいいかもしれないけど、実際には安アパートに近い。そのアパートのポストを覗いた。
新聞は取っていない。そんなお金があるなら他の事に使いたい。ネットで一通りの情報は手に入るし、テレビもあまり見ないからテレビ欄の必要性も感じない。しいて言えば、テレビ欄の後ろにある四コマ漫画が読めないのが悲しいくらいだ。
目に付いたのは、ビデオの広告だ。どうしてもこういうアパートには、独身の男が多く住んでいるからしょうがないのだろう。片っ端から手に取り、横にあるゴミ箱に投げ捨てた。
「女の私が観るわけないって・・・。」
独り言だ。
言ってから妙に恥ずかしくなった。
電話の請求書に、クレジットの請求書。ポストに残ったのは、明菜の大切なお金を奪う請求書の数々だけだ。これが毎月の事だ。だから、気にする事もなかった。その中に見慣れないものを見つけた。
「なんだろ、これ?」
一番下に茶色の封筒が入っていた。
“皆藤明菜様”
住所もなく、差出人の名前もない。
「誰、これ?」
気にはなったがそれよりも今は、温めてもらった弁当が冷める事の方が気になる。とりあえず、請求書と一緒にバッグに入れ自分の部屋に戻った。
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