死言数
六通目。最後の手紙。今日は六月六日だ。最後の手紙を渡すにはちょうどいい。
まず、手紙を鞄にしまった。いつもならこれだけだ。なのにどうしてだろう。足が勝手にキッチンに向かった。流しの下の扉を開け、そこにあったものも鞄にしまった。意識的なものではない。勝手に体が動くのだ。
しかし、その事すら実感していない。まるで夢遊病者のように街に出た。
ふらり、ふらり。その姿はまるで宙を彷徨う風船のようだ。触れようとしても、なかなか触れられないような安定感のないものだ。
瞳もどこを見ているかわからない。もっとも、深く被ったフードが、その瞳を隠しているから、それに気がつく者はほとんどいないだろう。
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