雨上がりの月夜に
転職するべきか?

幸い母も自分のやりたい仕事があればよそに出てもいいと言ってくれている。

やりたい仕事も丁度募集していた。

しかし、田舎の長男。

しかも本家とあって父が家を継ぐには地元にいてくれないとと言う。

悩みに悩んだ末、私は直属の部長に話がある、と告げた。


「どうしたんだい、話って?」

「実はこれを受け取って下さい。」


辞表。


「えっ?私はてっきり出向してくれるものだと思っていたが、参ったな~。」


「ご期待に添えず、申し訳ありません。」


やはり、私はこのチャンスを逃したくなかった。


自分のやりたい仕事をやる。


「まあ、これは預かっておくよ。」


部長だけでは判断しずらいようだ。


勤務時間終了と同時に表に出た。


外の空気は今までと違い、数段美味く感じ、私の心にも爽やかな風が吹き込んで来た。


晴れ晴れとした気持ちだった。


翌日、部長からの返事は辞表は受け取れない、という話しだった。


なぜだ?


後から考えると会社としてはこのタイミングで退職者を出すのは聞こえが悪い。

仕方なしに私は支配人に連絡する事にした。


約束の3日間は1日過ぎていたが、支配人に、


「例の件ですが、期日を過ぎてしまいましたが大丈夫でしょうか?」
と切り出した。


「う~ん、3日と言う事で君には話してあったからね。もう断ってしまったよ。」

「しかし、もう一度連絡してみよう。」

一度は辞めようかと思ったのに、何故かしがみつくかの様に会社に留まることを選んだ。

いつもそうだ。

自分の事よりも周りの事を優先してしまう。

だがこの時の決断が私の人生を大きく動かす事になるとは夢にも思わなかった。

本社からの返事はOKだった。


私は胸を撫で下ろすとともにまだこの仕事を続けなければならないという、葛藤の只中にいた。
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