今も恋する…記憶
夫の顔が、さくらの言葉で一瞬だが曇った。
しかし、すぐ…
「そんなこと、どうして言うのかなあ!
母は君のことをとても気に入ってね。
君と見合いの直後、すぐに返事をしなさいそう言って、
僕に詰め寄ったんだよ」
「ごめんなさい。
少し私の考え過ぎかも知れないわ。忘れてください」
しかし、それ以後も、姑の目線は夫だけに注がれ…
さくらには目もくれないという感じだ。
やはり、世間の言う一人息子を取られたということなのか、
しかし、それにしても
一軒の家中で、こうも冷たくあしらわれては、
当のさくらが傷付くのも無理は無い。
旅行から帰り、夫が仕事で海外へ出掛けてからは姑の口数も少なくなり、
さくらはどうしたら良いのと、頭を抱えていた。
ただ、さくらが救われたのは、友さんという…
55歳になる手伝いの人がいてくれたからだ。
姑と二人っきりになることはあまり無かったからである。
もちろん、家事もしなくても済んだから、
出来が悪くて姑に叱られることも無かったからである。
そんなわけだから、さくらのことを必要としている事は無くて、いつもお暇であった。
だからというわけで早めたわけではないが、
華道教室の仕事をさっそく始めていた。
稽古のある日は、朝早くからでかけた。
さくらにとっては、このことも救いだった。
夫がいつも居ないということに寂しさを感じることは無かった。
そう感じるほど夫との距離は近く無いからだ。
『お見合い結婚とは、
こんなもんやわ!』
さくらは、いつも自分に言い聞かせていた。
夫は、相変わらず仕事で海外を飛び回り、ほとんど自宅にも連絡もしてこない。
その夫も、やがて香港でマンション暮らしをするようになり一年が立っていた。
さくらは、まだ一度も行ったことが無い。
何だか行ったら、いけないような気がして、
自分から一度も行きたいと夫に言ったこともなく
又さくら自身も行きたいとは思ったこともなかった。
そんな、さくらもやがて妊娠することになる…
そのことは、さくらにとっては、青天の霹靂だった…