今も恋する…記憶
夫がパスポートの切り換えのために自宅に戻ったのは3月前だ。

いつもなら2週間は居るのだが、今回は7日間という短い帰宅だった。

しかも…
事務処理を終えると、さっさと香港へ帰ってしまった

それから、2ヶ月がたっていたが、さくらの身体の具合がどうも悪い。


食欲も無いそれに、眠くてしかたがないのである。

さくらは掛かり付けの医院で診察を受けたが、病気では無かった。

妊娠していたのだ。
一番驚いたのはさくらだ…

合点がいかなくて、いくら考えても納得できなかった

たしか、夫が帰宅したのは3月も前のことである。


それも、7日間いただけで、そのうち、一緒に過ごした

夜はたった一晩だけだ。
なのにである。


『あたりまえやないの。
結婚してるんやから』


しかし、自分を納得させるのには時間がかかった。

さくらは戸惑っているのに一番喜んだのは姑の高子である。

その日から、姑の態度がガラリと変わった。
もちろん、良いほうに〃

さくらが、華道教室を
休むことなく、続けようとしたことだけは、

気にいらないらしく…

いつになったら休むのとしつこく聞かれて困ってしまった。

結局、産前産後の一月を休むことに決め、

いつもと変わらない生活を送っていた。

やがて、月満ちて男の子が生まれた。

孝一郎と名付けたが、
この後には子供はできなかった。

だから、姑の高子は孝一郎を溺愛した。

片時も離さないようにして育てたから、さくらにはあまり懐かなかった。

しかし、さくらはそれで姑の機嫌が良ければ、自分は助かると思い容認した…

『お義母さんにとったら、孝一郎は息子の和彦の身代わりやと思う。

今となったら、孫が生活の全てみたいやわ。

お陰で、私への小言も無くなった…

跡継ぎを抱かせてあげたし、夫の代わりにいつも側にいてるし、

お義母さんは幸せみたい。
そやけど、私には何があるん!

生け花教室だけ、違うわ…うちの大事なものは、胸に埋めてあるねん!』

さくらの家は額縁の中に描かれた絵だ。

外から観賞するのはいいが、登場する人は…

表と裏とは大違いの世界になっている。



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