今も恋する…記憶
背信
たまに家にいても、さくらのすべき仕事はあまりにも無さ過ぎた。
その上夫が留守がちとなると、自然にさくらの目は外へと向けられてしまう。
だから、自分の世界を充実させることに夢中だ。
それに、この頃では
華道教室の生徒も増え、忙しくて自宅を不在がちだ。
今このように…大阪のホテルにいるが、
ここは人が群がり、ざわめいているだけで、さくらは孤独だった。
生け花の世界も、外目はいいが、内部は醜いものだ。
嫉妬や妬みがとぐろを巻いている。
油断したら、足元をすくわれかねない…
例えば、自分が出品している生け花が一夜にして無残な姿に〃…
その時の花はカトレアだったが、すぐに手に入るものではないので、
さくらは無駄になってもいいとして予備の花を用意していた。
だから、その急場をしのぐことができたのだが…
こんなことは、あたりまえのこと…
一見綺麗な世界だが、内部は醜いものだ。
嫉妬や妬みがとぐろを巻いていて、泥沼のようなものだ。
そんな仲間の先生たちは、もう眠りについているはずだが…
さくらだけは
眠れなくて、天井を睨んでいた。
その天井に夫の顔が浮かんでは消えた。
憎たらしい思いでいっぱいになっていた。
夫の知り合いから、夫が香港で女と同棲していると聞かされて、
すごく気分が悪くなって憂鬱が続いている。
そのことはうすうす、さくらはわかっていたのだが、
現実には、知りたくも無かったからである。
さくらの中では、しかたがないことだと割り切っていたのだ…
思うようにはいかないものだ。
それ以後は、香港にいる夫に電話もしない日が続いている。
『男はみんな、野獣だ。
菊池もそうや。
瞬時になれるん。
そうと違うん!』
さくらはためらいながらも電話を前にした…
とたんに身体中が熱くなっている。
『ほんまは、声が聞きたいくせに、
何ぐずぐずしてるん!』
そのうち、無性に腹が立ってきた。
もちろん、夫の和彦に〃
すると、菊池に会いたくなり、電話のダイヤルを回していた。