今も恋する…記憶
ずっと、このままで…
『あれから、30年も…
たってしもたん。
ここで、会った後、 この人に、さよならを
言うて帰る時…
胸が千切れるくらいに、切ない思いをしたこと、 忘れられへん〃
そやけど、今ここにいる 菊池は…
明日の朝になっても、
帰らんでも ええのん…
ずっと、このままでも ええのん…』
さくらと菊池はベッドに並んで座っていた。
目の前の窓の向こうには昔と少しも変わらぬ風景が見えている。
しかし、二人は昔のようにとは言えない…
年老いた、男と女だ!
それでも、やがて…
さくらの胸の埋み火がブスブスと 燃えようとしていた。
何もかもが、あの時の ようにとはいかないが…
さくらの女の本能という魔物が燃えながら、
海の波間をさまよい続けていた。
果てしない欲望に… ほんろうされて、
さくらは暴れる魔物になっていた。
ついには、気を失い-
気がつけば、
さくらの傍らには、
菊池が寄り添うように
眠っていた…
『この人、年老いてるのに子供みたいに寝てる。
それにくらべて、
うちは、魔物や〃
女は灰になるまで… そう言われてるけど、
やっぱり、ほんまやわ。女は魔物やいうのも 嘘と違う-』
翌朝、ホテルの朝食を食べ終わると、二人は散歩にでかけた。
ホテルから、少し歩くと
もう山…
その六甲の山からは、緑の風が吹き抜けていた-
その風が、二人の間をすり抜け木々の葉をゆすり何やら、ささやいた。
過ぎ去った時間を この世から、消してくれたのかも知れない…
『これからは、 ずっと、このままで…
うちの手を離さんといてお願いやから〃』