今も恋する…記憶
二人とも無言で互いの手を握り締め、見つめ合い…
コンクリートの塊のように動かなかった。
「あれから、何年になるのかなあ…」
「私…
ようわからへん〃」
会った瞬間に時計の針が逆に回っている。
過去の時間が一瞬にして始点に戻っている。
そのうえ、さくらは頭がはっきりとしなくて答えられない。
「僕のほうも、
あまりにも時間が立ってしまって…
よくわからないんだ」
彼…菊池真也は72歳になっていた。
しかし、見た目には若く…
頭髪も真っ白になってはいるが、
背筋がしゃんと伸びていて、おしゃれだ。
さくらは、
日頃生け花教室に来る若い生徒たちに接しているせいか、5歳は若く見える。
髪は生え際が少し白いだけで黒々としていた。
しかし、おばさん…
「ほんまやねえ!
たしか…
私がはたちの時やから、
あれから40年もたって、しもたんやねえ〃」
「すると、
僕が32歳の時と、いうことになるねえ」
「二人とも、ほんまに
若かったわねえ-」
「僕、今こうしていることが本当のことなのか、
夢の中なのか、わからない」
「そんなこと…
言わんといて、ほんまなんやから」
さくらは、
何故か喉がヒリヒリとして痛かった。
涙が溢れて喉へ流れたのかも…
そんなバカなことを…
考えた自分のことが、信じられない。
そして、改札口を抜けた二人が向ったのは…
此処で、出会う前から決めていたところだ。
かって、二人が密会していたところ…