【短編】限りなく虚無に近い黒
そんな八幡と僕が初めて話を交わしたのは三月に入ってからだ。


ある日の放課後、早春の気配をまるで感じさせない寒さに耐えかねて逃げるように入った古書店に八幡はいた。


八幡は僕の事を認めると「あ」と声を漏らした。それに対して僕も「あ」と返す。


無意識に以心伝心を図る。が、その後言葉は続かずそれは失敗に終わった。


「……えと、こんにちは……で大丈夫かな?」


「……多分、大丈夫かな?」


疑問文に疑問文で返す辺りが僕の対話能力の低さを傲然と物語る。


「え~っと……、奇遇だね。こんな所で会うなんて」


「うん。…………本当に奇遇だね。よくこの店にはくるの?」


「ううん。寒くてどこかで寄り道しよう。って思ったら目に入ったのがここだったの」


あ~。完全に僕と同じ理由だ。良かった良かった以心伝心は成功と、心の隅っこにでも刻んでおこう。
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