きゃっちぼーる
「変わってるね。だれか友達になってあげなよ」

「えっ、ちょ、あたしは無理っぽい」

 教室の中に、ささやきが生まれた。

 一哉はそのささやきが、自分たちに、いや、鏡に向けられていることに気づいた。

 ささやきの発生元は、怪談話をしていた女子のグループだった。

 何か理解のできないものを見た表情で、鏡を見て首を傾げている。

 特に山郡 恵(やまごおり けい)は、他の少女たちより反応が過剰だった。

 ゴマより小さな物を探すように、目を細めている。

 一哉は恵から敵意を感じ、すぐ視線を逸らした。

 ばれたかもしれないと思ったが、どうしようもない。

「それよりさ。最近放課後にね、教室や廊下や屋上でね……」

 恵たちは鏡の話題が広がるのを恐れたのか、再び怪談話に戻った。

 一哉は改めて鏡を見た。

 鏡の表情からは、ささやきに気づいたのか気づいていないのか、分からなかった。 

 ただ、気だるい動きで、自分の長い髪をかきあげた。

 一哉はゆずの香りを嗅いだ。

 香りはふわりとふくれ、すぐに霞んで消えてしまった。








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