きゃっちぼーる
 ドレッドヘアーがねっとりした気配を漂わせながら、力任せに鏡の足を開こうとする。

 鏡はごみや埃のついてしまった黒い長髪を揺らし、足を激しくばたつかせ、泣き喚きながら侵略に抵抗する。

「誰か助けて!」

 体育館の壁を抜けた瞬間、一哉は鏡の置かれている状況に震えながら言った。

「あぁ、心配するな。今、助けてやる」

 一哉の中に殺意がふくらむのに比例して、空間が真っ赤に変わりゆがんでいく。

「助けて!」

 鏡は目を見開き、一哉に向かって手を伸ばし、再び叫んだ。







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