きゃっちぼーる
 一哉は自分の目をこすった。ついでにほほもつねった。

「信じられない……」

 麻生鏡(あそう かがみ)が居た。

 どんな地面か確かめるような足取りで、グラウンドを一直線につっきって近づいてくる。

 一哉は目を大きく見開き、鏡を見つめた。

 湯でもかけられたように顔も体も熱くなったが、動揺が表に出ないよう注意する。

 何を言われるかわかったものではない。

 一哉は人さし指でほっぺを軽くかきながら自分に言い聞かせた。

 余裕ぶって。クールに。

 鏡にだけは、格好悪い姿を見られたくなかった。








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