きゃっちぼーる
 鏡は一哉の首に手を回した。

 一哉は柚子の匂いを嗅いだ。

 初めてのキスだった。

「うそ」

 恵は目を大きく見開き、震えた声で言った。

「ありえない」

 鏡は名残惜しそうに、一哉の口から唇を離した。

 そしてとつぜん走り出し、恵の横を抜けるとフェンスに空いた穴を一気に潜り抜け、

あと一歩進めば落ちる端で立ち止まると、真っ赤な空を見上げて言った。





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