きゃっちぼーる
 鏡は手を後ろに組み、一哉の目の前で立ち止まった。
 
 二人の距離は、お互い手を伸ばせば簡単に触れるぐらい近い。

 一哉は真っ赤だろう顔を見せたくなくて、うつむいた。

 目の前に、鏡が居る。

 他の誰でもない、鏡が。
 
「無理に感情を抑えると逆にかっこわるいよ? 挙動不審だもん」

「うわっ」

 一哉はうつむいた顔を下から覗き込まれ、つい声を出してしまった。
 
「あっ、う……」

 一哉は動揺を押さえ込み、うつむいたまま手を上げ挨拶を返した。

「やぁ」

 手は震えている。
 
 こんなにも僕は小心者だったけ?

 一哉は自分の頭をこづきたくなりながら、手を下ろした。










< 6 / 65 >

この作品をシェア

pagetop