きゃっちぼーる
「でもさ」

 鏡は大切なことを思い出したように、真顔になった。

「山郡さん怒ってたね」

 一哉はボールを軽く頭上に投げた。

「あなた達は苦労ぶっているふりをして、弱い自分から逃げているだけって。わがまま言ってるだけじゃないって。鬼みたいな顔だった」

 鏡が顔を歪ませた。

「でもね、私は」

「ねぇ。キャッチボールしない?」

 一哉は落ちて来たボールをつかむと、鏡に見せ、笑って言った。

「私は……」

「キャッチボールしようよ。うん。我ながら良い提案だ」

 鏡は再び空を見上げ、盛大な溜息を吐き叫んだ。

「あーもぉー、ちくしょぉー。ってか、キャッチボール!? いいねぇ。私、生まれて初めてするかも。ところでそのボールって顔で受けても痛くない?」

 水色の空に、声が広がっていく。




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