きゃっちぼーる
「久しぶり、だね」

 鏡が口を開いた。

 雅楽のような声だ。

 鏡から日常の世界にはない空気が舞いあがった。

 一哉は再会に感動したのが急にばからしくなった。

 本当に変わってない。少しは変われよ。

 一哉が自分のあらぬ悪口を心の中で思っていると勘違いしたのか、鏡は子供をしかる母親のように首を斜めに傾け、みけんにシワを寄せて腕組みをした。

 七分丈のティーシャツから伸びる腕は、太陽に照らされているせいか、白さがきわだつ。
 
 ジーパンは肌にぴたりと貼りついているせいで、足の細さが目立った。

 そんなラフな格好でも鏡は鏡だと、一哉は苦笑した。同時に、そういえば、制服以外の鏡の姿を見たことがなかったことに気づいた。









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