きゃっちぼーる
「久しぶり。うん。久しぶり」
 
 一哉は鏡と同じ挨拶で答えた。
 
 他に気の利いた言葉が浮かばなかった。
 
 鏡の長い黒髪が、風とじゃれはじめた。鏡は揺れる髪を手でおさえ、校舎に顔を向けて言った。

「何をしているんだい? グラウンドの真ん中で。授業はどうしたんだね、宮風一哉(みやかぜ かずや)くん」

 一哉の心は、鏡の瞳に吸い込まれていた。

 深い森の奥を見すえているような澄んだ目。

 一哉は銀色の眼を細めた。

 鏡の目が、自分と同じ風景を見てくれていたら嬉しい。

 心に映る風景が、同じだったら。

 我ながら自分勝手だと、一哉は我に返り、鏡と同じように校舎を見た。







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