いちえ



だんだんと宗太の家に近付くにつれ、小さな不安がふつふつと生まれてくる。



慶兄の事だから、またすんなりとみんなに報告をするだろうし………。


そして、龍雅の言葉も蘇る。


普段はどうしようもないお調子者のクセに、誰よりも勘が鋭く、よくみんなを見ている。



言葉にする…かあ。伝わるモノも伝わらない。確かにそうだけど………。


私には難しすぎる難題だ。


素直になれば、言葉にできる?


でも、私の気持ちを知ったら、きっと面倒に思われるんじゃないか、みんな離れてしまうんじゃないか………。


そんな事ばかりが頭の中を埋める。


怖いんだ。言葉一つで壊れてしまいそうで。


分かってる。そんな事で壊れてしまわないって。


でも、きっと何かは変わってしまうと思うから。


今の居場所を無くしたくない。



それに、私自身が自分の気持ちが分からないんだ。



「もも」


「う、えっ」



思いっ切り思考の渦に浸かっていた私は、慶兄に名前を呼ばれて素っ頓狂な返事をしてしまった。


「考え事か?」


「あ…えぇ〜と…」



答える事のできない私に向かって、慶兄がクスクスと笑う。


「ももはそのままでいい。何も深く考えなくていい」


「う…ん?」


「きっとみんなも分かってるぞ」


「…え…何が…」



みんなも分かってる…?分かってる……何を?



「ももの気持ち。だから考え込むな」


私の気持ち…?


「……何で?」



だって私、何にも言ってないよ?


「みんな、ももの事ちゃんと見てる。気付いてないのはももだけ」
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