いちえ



「え…どうして……」


私の事を見てる?

どういう事?


言われた意味の分からない私に、慶兄が優しく笑いながら言葉を続けた。


「ずーっと一緒に居て分からない奴らじゃないよ。みんなももの事大切に思ってる。あとは、ももが素直になるだけ」



そんな事、考えた事もない。


逆に、迷惑なんじゃないかと思っていたし、ひたすら自分の中で消化していた。



「我慢しすぎだし、甘えてみろよ?」



我慢しすぎ…か。何度目だろう。こうして言われるの。


そんなに私は我慢しているように見えるのだろうか。


やっぱり意識なんてした事ない。



「今までそれが普通で生活してきたから、いきなりは無理だとは思う。でも、思った事を少しづつ言葉にするようにしてみろよ」


「うん…そうだね」



思った事を言葉にか…。



暑い陽射しは、緩む事もない。


こうして慶兄と並んで歩く道のりは、どこまでもモヤモヤと道が揺れている。



慶兄の気持ちが、嬉しかった。

こんなどうしようもない私に、いつも絶えず言葉をくれる。



変わりたい。でもどうやって?




私は、変われるんだろうか。


気持ちを言葉にする事ができるのだろうか。


支えてくれる慶兄に、私は応える事ができるのだろうか。



初めの一歩は、誰だって躊躇する。


先の事を考えすぎて、その結末が怖いんだ。


もし、失敗したら?もし、思っていたモノと違ったら?


そう考えて、一歩が踏み出せない。


まだやりもしていないのに、人は臆病な生き物だ。



私に、できる?


変われる?


「失敗を怖がってたら何もできねーぞ?一度は当たって砕けてみろよ」
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