いちえ



いつまでも動け出せず、玄関の閉まる音がしても立ち尽くしていた。


何だか胸に穴がポッカリと空いてしまったみたい。




やっぱり夏は、私に意地悪だ。




最後に見た慶兄の背中は、広くて大きくて、とても優しかった。



いつまでもクヨクヨしていちゃダメだ。しっかりしなきゃ。



滲む視界を振り払うように、涙を拭いた。


きっと泣いてしまった事は安易にバレてしまうだろう。


でも、いつまでもここに居る訳にはいかない。




そして私は、再びドアノブに手を掛け、大きくドアを開けた。


ひんやりとした冷気が、火照った体から熱を取ってくれるようだった。



「おかえりー」


「慶兄行った?」



何事もなかったように、龍雅と宗太が二人でゲームをしながら声を掛けてきた。


「うん、行ったよ」


「そか」



それ以上、何も突っ込む様子もなく、何も考えずに元居た場所へと腰を降ろした。


テーブルに肘をついた瑠衣斗は、じっとゲームをしている宗太と龍雅を見ている。


会話は何もない。


でも今は、それがありがたい。



もたれかかるようにして、両腕を組んでその上に顎を載せた。


一緒になって二人の様子を見て、切なさをやり過ごそうとした。


そんな私の思いも虚しく、頭にポンと優しく何かが乗った。


優しく撫でてくれるモノに、呆気なく涙腺は崩壊し、腕に顔を埋めた。



「泣き虫」


…そうだね。

私、本当に泣き虫………。


「…るぅのせいだよ」


「そうなのか」




そうだよ。バカ。
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