いちえ



「わはっ、激しいなあ〜」


「ちょ、ストップっ……」



宗太の呑気な言葉に、本気で「変わってみる!?」と言いたい。


何とかももちゃんを制しながら、ふう、と息を付く。


それと同時に、瑠衣斗が腰を上げる。



「なあ、親父らまだ帰ってこねーならもも散歩連れてくわ」


「あ、本当?うん連れてって〜」



犬とか猫とか、好きだけど飼った事のない私は、散歩と言う物ももちろんした事がない。


てっきり瑠衣斗1人で行くものだと思っていた私は、いつまでたってもその場から動かない瑠衣斗を不思議に思い、ふと見上げた。


「…え?なに?」


「ももが動かない。もも、一緒に行くぞ」



えっ?と思い、隣のももちゃんを見ると、その場に佇んでいるだけだ。



「飼い主の立場ないわね」


「うっせーなあ。ほら、立って。行くぞ」



荒々しく瑠衣斗に腕を掴まれると、すんなりとたたされてしまった。


それに反応するように、ももちゃんも腰を上げた。



「だはは!!ももモテモテじゃねーか!!」


「犬も人を選ぶんだなあ〜」



不機嫌そうに眉を寄せた瑠衣斗が、龍雅と宗太にひと睨みする。



未だに笑い続ける三人を残し、何だか訳の分からないまま瑠衣斗に続いて部屋を後にした。


やっぱりももちゃんは尻尾を振って私に付いてくるし、何だか瑠衣斗が可哀想に思えて笑えてくる。



「ねえ、るぅ」


「…何だよ」


「私に焼き餅やかないで」



あえてそう言ってみると、やっぱり軽く睨まれた。
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