いちえ
雫陽
何か耳につく音がして、薄く瞼を開けた。
周りは明るくなってはいるのに、どこか暗い。
「うー…ん…」
再び目を閉じると、よりクリアに音が耳へと届く。
ザーッと聞こえてくるその音は、雨の音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
再び目を開けると、見慣れない光景に身を固める。
……あれ?ここ……。
まだ寝息を立てる龍雅と宗太が目に入り、混乱する頭を整理するように辺りを見渡した。
あっ、そうだった。
昨日からるぅの実家に来てるんだった。
むくりと体を起こして、隣り合うように寝ているはずの瑠衣斗の方を向き直る。
でもそこには、瑠衣斗も居なければ寝ていたはずの布団すら見当たらない。
よく探すと、ももちゃんも一緒になって見当たらなかった。
どこ行ったんだろう……。
しばらく寝起きのせいで働かない頭をボーッとさせて、とりあえず布団を元の襖へと戻す。
開いた襖の中には、予想した通り一式の布団が入っていた。
まだ起きる気配のない龍雅と宗太は、昨晩見た時よりも豪快に布団を乱している。
苦笑いを噛み締めるようにして、私はそっと部屋から抜け出した。
夜は暗くて分からなかったけど、昨日露天風呂から見たと思われる川が流れていた。
雨のせいか、少しだけ濁ってみえるが、晴れていたらきっと綺麗なんだろうと簡単に想像ができる。
夏独特の、少しムシムシとした湿気が、雨のせいか肌に張り付くようだ。
それでも、気候が涼しいせいか、不快感はさほど感じなかった。