いちえ



「あら、早かったわね〜」


私の姿に驚く瑠衣斗を余所に、おばさんはのんびりと声を掛ける。


チラリとおばさんに目を向けた瑠衣斗は、何故かびしょ濡れだ。


「あいつまた全力で走りやがった」



その言葉で、ももちゃんの散歩に行って来たんだと納得する。


「早く体拭いて着替えてきなさい。あ、あとパパ起こして。ご飯にするわよ」


「へいへい」


適当に返事しつつも、こうしてちゃんと家のお手伝いをしているんだなあと関心する。


瑠衣斗と入れ違うようにして、少ししんなりとしたももちゃんが軽い足取りで入ってきた。


びっしょりと濡れていない事からも、瑠衣斗がきちんとタオルで拭いてあげた事が伺える。


「はい、もも〜ご飯よ。いっぱい走れた?」



笑いながらももちゃんに話し掛けるおばさんは、何とも楽しそうにしていて、私はそっと胸をなで下ろした。


気まずさなどはなかったけれど、何となく、悲しそうなおばさんの顔を、見ていられなかった。


大きく尻尾を振るももちゃんは、鼻を擦り付けるようにしておばさんにすり寄る。


そんな様子が可愛くて、自然と頬が緩むようだ。


「同じ名前って、何か縁を感じちゃうわ♪」


「はい。本当にですね」



ニッコリと笑うおばさんに、私も素直に笑顔で応える。


きっと、何かあるんだろう。


そう考え、ふとある事に思い当たる。


弟…さん……?



「相変わらず寝起きわりーな」



そんな考えを強制終了させられるかのように、タオルを頭に被せた瑠衣斗が、着替えを済ませて戻ってきたのだった。
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