いちえ
相変わらず、いつものように賑やかな車内に揺られ、車は町中へと流れ込んだ。
少し行くだけで、こんなにも景色が変わる様が、改めて何とも新鮮に感じる。
昨日見た、町の中心を割るように流れていた川は、雨のせいで昨日よりも増水しているようだ。
「俺明日釣りしに来ようかなあ」
のんびりとした宗太の声に、そう言えば釣りがしたいと言っていた事を思い出す。
「家の裏でも釣りならできるぞ」
「おっ、まじか」
瑠衣斗の言うように、家からは川が望む事ができたし、何より、それ以前に昨日の夜の出来事が脳裏に蘇る。
胸がキュッと狭くなるように、息が詰まるようだ。
トクトクと鼓動する胸に、意識は瑠衣斗に持って行かれてしまう。
切ない疼きに、体を座席に埋めるようにして、私はそれをやり過ごすしかない。
ハンドルを握る瑠衣斗の姿が、頭に焼き付くように外の景色を見ても離れなかった。
賑やかな会話には混ざる事もしないまま、車は町中をしばらく走ると、川沿いに面したある一軒のお店の隣にある駐車場へと入った。
「はい、着いた」
ここがどこなのか、何があるかは勿論分からない。
車内から外の様子を伺っていた私に、瑠衣斗の声が掛けられる。
「んなキョロキョロして…とりあえず降りろよ」
笑いを含んだ声と、柔らかく微笑む瑠衣斗に、見られていた事に恥ずかしくなる。
後ろでは、宗太と龍雅が騒がしく車から出る音がして、私も慌てて車から出たのだった。