いちえ
「あら〜、そうなん?」
そう言いながらも、どこか楽しげなおばさんに、私は戸惑いながら笑顔を向ける。
何かちょっと複雑だけど、事実だし……。
そんな私を庇うようにして、瑠衣斗が言葉を続ける。
「おばちゃん、余計な事言わんといてくれよ」
怪訝そうに言う瑠衣斗とは対照的に、目尻に皺を寄せて笑うおばさんはとても楽しげだ。
「余計な事って何を言うん〜?」
「もういいからほっといて…」
テーブルに肘を付いて、髪をかきあげるようにして呟いた瑠衣斗も、半ば押され気味だ。
目の前では、いつの間にか意気投合している宗太と龍雅が、おじさんやおばさんに何か誘われているようだ。
「はいはーい。お待たせ〜」
話に耳を傾けようとした時、タイミングよく由良さんがやって来た。
それを合図にしたように、ようやく宗太と龍雅が前に向き直る。
「2人とも大人気ね」
笑いながら言う由良さんは、手慣れた様子でテーブルに珈琲を並べていく。
ふわりと珈琲の芳ばしい良い香りが、鼻をくすぐる。
「俺旅館に泊まりに誘われちゃいました〜!!」
「行ってらっしゃい」
冷たくそう言う瑠衣斗は、そのままティーカップに口を付ける。
「一緒に釣り行こうって。ポイントに連れてってくれるらしい」
「お、いいじゃねーか。お土産よろしく」
対して宗太には普通に答える瑠衣斗に、由良さんがクスクスと笑う。
いつもの事なんだけど、やっぱり瑠衣斗って龍雅に対して素っ気ない。
でもそれは、仲が良いからこそで、それで長年成り立っている。
見慣れた光景を前に、私は目の前のティーカップに手を伸ばした。