いちえ



「いただきます」


「どーぞ♪」


ふわりと香る珈琲の匂いが、気持ちをホッとさせてくれる。


一口そっと口に含むと、口の中全体に芳ばしい香りが広がり、美味しさに顔が綻ぶ。


「美味しい〜」


私の言葉に、ニコニコと笑う由良さんとは対照的に、瑠衣斗は黙って珈琲を口に運んでいる。


そんな瑠衣斗に向かい、気が付くと由良さんの背後から顔を覗かせるおばさんが再び口を挟む。


「瑠衣が女の子連れてるなんて、大雨だわねぇ由良ちゃん」


「もう今朝降ってたじゃん」


そんなおばさんと由良さんの会話に、瑠衣斗が咳き込む。


顔をほんのりと赤くさせた瑠衣斗が、ジロリとおばさんと由良さんを睨み付けるが、そんな様子もお構いなしに、2人は実に楽しそうに笑う。


「ももちゃん?で良かったわよね」


「えっ、は…はい」


まさか自分に声が掛けられると思っていなかった私は、慌ててティーカップをテーブルに置くと、姿勢を正す。


ギョッとする瑠衣斗を通り越し、私に向けられた視線を、私は逸らす事もできずに受け止める。


「うちの息子と会ってみない?」


ん?息子…さん??



言われた事の意味を理解するのに、数秒はかかっただろう。


目の前でにこやかに笑うおばさんは、ワクワクと私の返事を待っているようで、そんな様子に私は固まる。


「なっ…何言い出すんだよおばちゃん!!ダメに決まってんだろ!!」


「何で瑠衣が決めるのよ〜?」


慌てたように言う瑠衣斗に対して、楽しむような口振りの由良さんが笑いを含むように言うと、グッと瑠衣斗が口を噤む。



「瑠衣の同級生の息子なんだけど、どう?」
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