いちえ



「由良ちゃーん。お会計して〜」


タイミングを計ったかのように、他の席から由良さんに声がかかる。


「あっ、はあーい。ありがとうね〜!!」



パタパタと店内へと向かう由良さんは、笑顔を振りまきながらお客さんの元へと向かう。


そんな姿を見送る私に向かって、おばさんが笑顔で覗き込むようにして私に声を掛けてきた。



「それじゃあ、私もそろそろ帰らなきゃいけないから」


「あっ、はい。ありがとうございました」



慌てて立ち上がり、ペコリと頭を下げた。


そんな私に向かって、おばさんは満面の笑みを浮かべる。


「それじゃあ、またね〜ももちゃん♪あ、瑠衣。大輔に連絡入れるよう言っとくから」


「言わんでいいし!!」



心底嫌そうに答える瑠衣斗も、何だかんだ言いながらも最後はきちんと手を振って見送る。



何だか嵐が過ぎ去っていったようで、軽い脱力感に深く腰を下ろす。


ようやく、ゆっくりと周りに目を向ける事ができるようになると、目の前の宗太と龍雅に目が止まった。



なおも大人気な2人を前に、声を掛けるタイミングすら伺えない。


そんな様子を尻目に、瑠衣斗はのんびりと珈琲を口に運んでいる。


「ねえ、由良さん…ここで働いてるんだ?」


私の言葉に反応するように、ゆっくりとテーブルへとカップを戻した瑠衣斗は、肘立てをして宗太と龍雅を見つめ、ゆっくりと口を開いた。



「働いてるっつーか、ここ由良と由良の旦那の店なんだ」


「…え!そうなの?」


「うん。そうなの」
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