いちえ
「あの――…嫌…かなぁ?」
「嫌じゃねえけど……」
何だか煮詰まらない態度の瑠衣斗に、不安がふつふつと湧いてくる。
あれ?何か…嫌そうな感じがしたんだけどな。
でも、何でこんな態度をするのだろう……?
賑やかな声を耳に、隣の瑠衣斗を見上げた。
明るい照明の光を集めたように、キラキラと輝く色素の瞳に、それを囲む長い睫毛。
伏せ目がちなそれに、頬には影が落ちる。
その瞳が、ゆっくりと私に向けられると、途端に吸い込まれてしまうんじゃないかと思わずにはいられない。
「……ん?どした?」
「え……あっ、あぁ!!いやあのね!?」
思わず見とれてしまい、弾かれたように慌てだす私を、眉を寄せた瑠衣斗が心底不思議そうに見つめる。
そんな顔して見つめられたら、思ってた事も忘れちゃうじゃん。
言えなくなっちゃうじゃん。
「あの…あの……ね?」
「ね?って何だよ」
私の気持ちなんて知ってか知らずか、ふわりと笑う瑠衣斗に目眩がした。
ただ一言、簡単な言葉なのに、何だか余計な事まで考えてしまい、不安要素ばかりが無駄にこびりついてしまった考えは、素直に言葉に出しにくい。
「え〜と…やっぱりどっか適当に案内してくれれば…」
そんな私の気持ちとは裏腹なセリフに、何故か瑠衣斗が不服そうな表情を見せる。
「…何か無駄に遠慮してねえ?」
「え!?しっ、してない!!何で!?」
「ももの事どんなけ見てきたと思ってんだ」
「え!?」
まあ、今の言葉に深い意味なんてないんだろうけど。
そもそも、裏をかいかぶりすぎなのかな。私。
何となく、何か物思いにふけるような顔をした瑠衣斗が、胸に引っかかっただけではあるけれど。