いちえ



「マジで思い出せないんか」


「…マジ」



そもそも、そんなに大切そうな約束なら忘れないし。

それに、本当にいい加減教えてくれたっていいんじゃないかとすら思うってしまう。



薄暗い中、視線が絡み合うたびに胸が高鳴る。


いつの間にか、瑠衣斗に向き合うようにして横を向いていた私は、今度こそ体制を戻す事が不自然に思え、元に戻れない。


「ヒント…ヒントかあ」



ふと考えるような仕草をした瑠衣斗は、チラリと私を見ると、うつ伏せのような体制から体ごと私に向き直る。


少しは距離を取っているとはいえ、完璧に向き合ってしまうと本当に距離は近い。


何だか真剣な眼差しに、私は蛇にでも睨まれたように視線が外せない。


サラサラと流れる髪が、瑠衣斗の瞳を少しだけ隠してしまう。

でも、その間からは、照明を取り込んでしまったような、キラキラとした瞳に何か熱っぽさを感じる。


何も言葉を発せなくなってしまった私は、そんな瞳から目が離せないでいた。


そして、私に向かって伸びてきた腕に、簡単に肩を引き寄せられてしまった。



「えっ?ちょ…っ」



気付いた時には遅く、声を出したタイミングすら遅すぎた。



グッと背中に腕が回されたと思った時には、もう瑠衣斗の首もとに頭を押し付けるような形になっていた。


もう一方の腕は、私の頭を離さないかのように、抱え込むようにして固定されている。



包み込まれる温もりに、瑠衣斗の甘く爽やかな香りが濃く感じる。


目の前がチカチカして、一瞬何が起きたかも分からなかった。



「これがヒント」
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