いちえ



「うひゃあっ」



脇腹からお腹に手が入ってきて、何とも間抜けな声が思わず漏れる。



「色気も何もねえなあ」



気が付くと、瑠衣斗のお腹と私の背中は、ピッタリとくっついてしまっている。



「なぁ…もも」



いつの間にか耳元に寄せられていた瑠衣斗の唇が、私の耳元に触れる。


こう言う時、どうしたらいいのか分からない。


頭の中ではいろいろごちゃごちゃ考えているのに、体も口も一切動かない。



「俺の心臓の音、分かるか?」



グッと身構えていた私は、いつの間にか強く閉じていた目を開けた。


言われた事の意味が分からず、頭の中で繰り返してみる。


「音…?」



るぅの…心臓の音?



やけに早く感じていた自分の胸の鼓動に、重なるようにして鼓動する、もう一つの鼓動。


「俺、めちゃくちゃ緊張してる。どうしたらいいのかも分からねえ」



るぅが緊張してる……?


るぅも緊張してるの?



ギュッと抱き締める腕が、少しだけ緩む。


私の首筋に顔を埋めるようにして、瑠衣斗が動きを止める。



「めちゃくちゃももを抱きたい。でも、めちゃくちゃ大事すぎて、どうしたらいいのか分からない」



「る…ぅ…」



胸がギュッと音をたてるように縮まり、温かくなる。



愛おしくて、愛おしくて、涙が出そうになった。
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