いちえ



「…うん」


「でも…るぅを苦しめたくもないの」


「うん」


「でも怖いの…」


「うん」


「でも、男の子の事情って大変そうだし」


「う…うん」



何を言っているのか、何が言いたいのか、訳分かんなくなってきちゃった。


一度大きく息を吸って、大きく深呼吸した。


言葉を選んで整理する余裕なんてない。今は思うまま、気持ちのままに言葉にすればいい。


「私…けっ、経…験……ないから…経験とか…あれば怖くないかもしんないし、だから…面倒で…ゴメン」



自分で言っておいて、自分で虚しくなる。

やっぱり…怖いとか言ったら、面倒だと思うよね……。


すぐ近くで、瑠衣斗の溜め息が聞こえる。


うん。何か泣きそ……。


「あのさ、鈍感にも程があるんだけどさ、ももは生粋の鈍感だな」


「…えぇ〜…」



酷い言われように、落ち込みそうになる。


「面倒なんて一度も思ってねえし、思うワケねえし。むしろめちゃくちゃ嬉しすぎて頭ぶつけてえくらい」


「頭はダメだよ頭は」


「うん、そうだな。じゃあ…ってちげーよ乗せるなよ」



瑠衣斗が笑う振動が伝わり、何だか固まってしまっていた気持ちが解れていく。


ギュウッと抱き締める力が加わり、私は口を噤む。


「もうこの際正直言うけど。俺はずーっと、ももは慶兄とやったモンだと思ってたワケな?」


「う…うん」



恥ずかしさのあまり、耳を塞いでしまいたくなる。


でも、ちゃんと聞かなきゃ、瑠衣斗の気持ちを聞かなきゃと、グッと踏ん張った。
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