いちえ
「まあ、それ以前に…俺と知り合う前でも後でも…後はねえか。経験あったりすんのかなーとか思ってたのな」
「ないけど…一言余計な気が…」
「……だから、慶兄と…って思ったら、早く自分のモンにしてえと思ったし、アイツの記憶も消してえと思ったし、」
「今無視したの仕返しでしょ」
「うん」
クスクス笑う瑠衣斗に、完全に気持ちが解れていた。
少しだけ熱さの取れた瑠衣斗の腕に、自分の手を重ねた。
私の指を絡め取るように、瑠衣斗の手が重なる。
顔は見えないけれど、瑠衣斗の気持ちが温もりで伝わってくる。
「だから、俺の独り善がり…かな。してねえって分かっても、我慢できなくなっただけ。面倒なんて全く思ってないよ」
「ホントに?」
「本当〜に。それに…我慢したのは」
「…うん?」
グッと軽く重みが感じたと同時に、背後から身を乗り出すようにして瑠衣斗が私の唇に軽くキスをする。
不意をつかれたせいで、今度は私の方が熱くなる。
すぐに元の体制に戻った瑠衣斗が、穏やかな声で私に耳元で囁く。
「もう少し、この時間を大切にしたいから。気持ちも繋がって、体で繋がったら、もっと幸せだとは思う。でも、きっとお互い何か変わるだろう?」
「え…?」
「何年片思いしてきたと思ってんだ。いきなり盆と正月が来たら贅沢すぎるだろう。我慢なんて今更だ」
瑠衣斗らしい例えに、思わず笑いが漏れる。
胸が温かさで一杯になる。
こんな温かい気持ち、私にもあったんだ。
この気持ちも、前の私じゃ言葉になんて出来なかっただろうな。
「るぅ…大好き」