いちえ




すやすやと寝息をたてる瑠衣斗は、幼い子供のようであどけない。


感じる瑠衣斗の重みに、胸が切なくなる。



私は、瑠衣斗の異変が何か、考えても思い付かない。


突然、それこそ寝て起きて変わってしまったように思える瑠衣斗に、一体何があったのだろう。


放り出されたままの瑠衣斗の左手に、そっと自分の右手を重ねる。


長く綺麗な指に、大きな手のひら。浮いた筋に、私とは明らかに違う手に、瑠衣斗も男の人なんだと思い知らされるようだ。



指を絡めるようにして手を握り込んでみても、まるで私の方が握り込まれているようで、おかしかった。



バスの揺れと、涼しい冷気にさらされているうちに、瞼が重くなる。


このままこうしていたい……。


そう思い、そっと瞼を閉じた。




繋いだままの手のひらの感触に、瑠衣斗と繋がっている事がリアルに分かる。


そんな事が嬉しくて、私はいつの間にか眠りに落ちていた。




夢を見た。


何だか、何か久しぶりな気がして、夢の中で誰かを探した。


探しても探しても、何も見つからなくて、むしろ遠ざかっていく。


結局何も見つからなくて、私はいつまでもひとりぼっちで。



そんな時、突然の雷鳴に身を震わせた。


夢が現実かも分からず、降り出した冷たい雨に何か立ちはだかる建物を見上げている。



胸が裂ける程の痛みに、顔を背けたくても身動きが取れず、叫びたくても声すらでない。



見たくない。見たくない。



見てしまったら私は、失ってしまうから。



だから私は、現実から逃げ出したんだ。
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