いちえ
恋焦
「お、帰ってきたか」
職員室へと帰ってきた私達に向かい、穏やかな笑顔で迎えてくれた橋田先生が、そう言って私と瑠衣斗を見比べ、繋がれた手で視線を止める。
「本当に、唯ノ瀬さんは大変だなあ」
満足そうに笑うと、橋田先生が瑠衣斗を見上げる。
何だかやたら恥ずかしくて、私は唇をギュッと結んだ。
やっぱり何だか、人前で手を繋いだままと言う事に、ドギマギしてしまう。
瑠衣斗は何とも思ってないのか、相変わらず涼しい顔なんかしているし。
「だから、言ったのは自分だろう」
「ほほ。それはそうだが…そこまでしろとは」
そう言って笑い出した橋田先生に、瑠衣斗が不機嫌そうな視線を向ける。
何だかさっきも言っていたけれど、一体何の事を言っているのか分からない私は、首を傾げるしかない。
「あの…何の事なのでしょうか…?」
気になって仕方のない私は、ポツリと疑問を口にしてみる。
そんな私に注がれる2人の目線に、意味も分からずに2人を見比べる。
何だか不機嫌なのに、少し頬を赤くした瑠衣斗に、対照的にとても楽しそうな橋田先生。
そんな顔されても、分かりません!!
私の気持ちを察したのか、橋田先生が笑いを抑えながら口を開く。
それは、やっぱりとても楽しそうに。
「私がね、絶対に手を離すなと言ったんだよ」
「…え?」
よく焦点の分からない私は、再び首を傾げる。
それは分かった…けど、そもそもなんで……。
「まあ、後は本人から聞くといいよ」
何だか物凄く焦らされたような言い方に、私は気になって仕方ないまま曖昧に頷くしかなかった。