いちえ
背の高いビル群が、目の前に広がっている。
重くのし掛かったような雨雲に、強い雨がビル群の上階部分を見えにくくしていた。
バスで駅まで来るなんて久々だ。そこから電車に乗る事も、記憶がないくらい前の話だ。
アナウンスが流れ、バスターミナルへと到着すると、鞄を持って席を立ち上がった。
バスを降りると、雨の匂いが鼻につくようだ。
沢山の人々が、溢れかえっている。
流されるように、私も人々の流れに紛れ込んだ。
今日は、瑠衣斗も居ない。慶兄も居ない。
ひとりぼっちには慣れている。
私はひとりぼっちでも大丈夫。
そう言い聞かせても、心の底からは寂しいと叫んでいるようだ。
人々の目が気になり、足早に改札へと向かった。
「あっれ〜?ももちゃん?」
人混みの中から、聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえ、思わず身を固めた。
避けるように人波が割れ、その先に久々に見る顔を発見し、胸がギアを変えたようにドクドクと脈打ち出す。
「……りなさん…」
「きゃ〜♪久しぶりぃ!!」
人波を掻き分けるようにして近付いてきた彼女の隣に、知らない男の人が居た。
一瞬でも瑠衣斗かと思った私は、その事にホッとしたのも束の間、違う違和感を感じた。
「今日るいは一緒じゃないの〜?」
「えっ?…あ、あぁ…うん」