いちえ
「………から?」
何だかしっくりこないセリフに、思わず眉をしかめた。
そんな私に、慶兄が吹き出して笑っている。
「いや…違う。あ、違くないんだけど、ん〜?」
「さっきから笑いすぎだよ」
詰まりながら言う慶兄は、本当に楽しそうに笑っている。
笑われているのかもしれないが、嫌ではない。
むしろ、こうして笑ってもらえる方が私も気持ちが落ち着くようだ。
「悪い悪い。いやだから、ももはそんなつもりないだろうからさ。一緒に居るだけで、疲れなんてぶっ飛ぶ」
笑いを引っ込めた慶兄が、私の頭を撫でながら目線を私に合わせ、優しく私を見つめた。
「…そ…そうなんだ」
反応するように胸がドキドキして、思わず施設を泳がせた。
付き合い始めてから、一緒に居る時間は長くなったけど、こんな風に見つめられるのは相変わらず慣れない。
むしろ恥ずかしくてたまらない。
そんな私の反応を、慶兄は最近楽しんでるんじゃないの?とまで思ってしまう。
「もも」
「…え?」
ポツリと名前を呼ばれ、下げていた視線を慶兄に向けた。
間近にある慶兄の顔が、優しく緩んでいる。
ドキドキと鳴る胸の音が、慶兄に伝わってしまっているんじゃないかとさえ思う。
「ん。キスして」
「……えっ!?わ、わたっ、私から!?」
私の言葉にニッコリ笑った慶兄が、今は小悪魔に見えて仕方ない。
「むりっ!!」
「して」
あわあわする私を余所に、慶兄はニコニコして離れてくれそうにもない。
顔がかぁっと熱くなるのが分かり、思わず口を結んだ。
「……ももは意地悪だなあ」
「どっ…どっちが!?」
本当に慶兄って意地悪だ。