いちえ



バタバタと部屋の外から足音が聞こえ、賑やかな声もする。


すぐにみんなが帰って来たと言う事が分かり、反射的に慶兄から離れようと胸を軽く押した。


そんな私の手を慶兄がぐっと掴み、思わず私は慶兄を見上げた。



「慶兄?どうし……」



私が言い切る前に、慶兄に優しく唇を塞がれてしまった。


軽く角度を変えて息もできないような甘いキスに、押した腕から力が抜けてしまう。


何も考えられなくなってしまい、頭が痺れるようだ。



チュッと小さく音を立てて慶兄の唇が離れて行った瞬間、勢いよく部屋のドアが勢いよく開かれた。


「たでーまあああ!!!!おぉ〜っと邪魔したか〜い?」


「もうちょっと遅く帰ってこいよな」



龍雅のふざけているようにも本気にも取られるセリフに、慶兄までそんな調子で返した。


なあ?なんて言って笑いかけてくる慶兄を、たたぼーっと見つめるしかできない。



慶兄って…本当に大胆だよね。2人っきりだと特に………。


自分の思考にまで浸かってしまい、何も言い返す事もしずにただ慶兄を見つめた。


「ももちゃ〜ん?そんなに慶兄に見とれてたら慶兄に穴あいちまうよ」



思わずぼーっとしていた事に気付き、慌てて後ろに振り返った。


「み、見とれてないって!!」


「素直じゃないわねえ〜♪」



そう言ってスタスタと部屋に入って来ると、ドッカリとソファーへと腰を下ろした。



ドアの近くには苦笑いする宗太と、ただじっとそんなやり取りを眺めていたような瑠衣斗と目があった。


雨に濡れてしまったようで、しんなりとした髪と軽く濡れた服のせいか、何だか疲れたような表情にも見受けられる。



そんな表情に、胸がギュッと音を立てて縮むようだった。
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