君への距離
翼はあの日の練習後に原田さんをはじめ、ほとんどの部員に入部を迫られた。



山下さんとの対戦で三球三振、しかも見逃しに抑えこんだ翼にみんな度肝を抜かれたようだ。







「バイトとかあるし…、考えときます。」


そうは言ったものの翼には入る気なんてさらさらなかった。



入ったら入ったである程度の活躍はできる自信はあった。




でも、

(軟式だもんな~)



そこが引っかかっていた。




翼にとって、硬式以外の野球はたかがお遊びにすぎなかった。






だから、あの日から練習には行っていない。


入る気がまったくない自分がみんなに変な期待を持たせてはいけないと思ったからだ。





しかし、レッドの部員とキャンパス内ですれ違うたびに誘われるので翼はうんざりしていた。




1年生のアツシ、マサキ、ケンちゃん、リョースケ、シオとはあの日を境にけっこう仲良くなっていた。




みんなで食堂で学食を食べていたときにケンちゃんが、

「翼が入ったら即ヒーローなのになぁ~。」
とぼやいたことがあった。




翼は少し笑って、

「もういいんだよ、野球は…。」

とつぶやいた。





5人は顔を見合わせて黙りこくった。




そのときの翼の笑顔があまりにも痛々しかったからだ…




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