君への距離
さすが去年全国2位の名宝大学。


観客が半端ない。


一塁からセンター側にかけて名宝のカラー、紫一色だ。




「プロの試合みたいやな…。」
シオがスパイクを履きながらつぶやいた。




「燃えるなぁ」
リョースケがニヤリと笑った。



「黙らしてやれよ!翼ぁ!!」
アツシが翼の肩をポンポン叩く。



「…杏ちゃん、ボール!!」


いつものように試合前の翼は言葉少なだ。



「いってらっしゃい!!」
杏もいつものように笑顔で一番きれいなボールを選んで投げる。


パシッ


きれいな弧を描いてボールは翼の大きな手のひらにおさまる。



「行ってきます。」
翼は杏と目を合わせると、にこっと微笑んだ。



「!!」
杏はびっくりして持っていたスコアブックを落とした。


今までこんなことなかった。


(今、こっち見てくれた?)
杏は泣きそうなくらいうれしかった。




翼がゆっくりとマウンドに向かって歩いていった。




マウンドの土を踏みならす。


翼の背中がピタリと止まる。


杏が緊張した面持ちでそれを見つめる。



いつものようにきれいなフォームで

振りかぶり、





投げた!







パシッ!!




アツシのミットのど真ん中。
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