君への距離
(見ているだけの陸上がこんなにつまらないなんて…)

杏はため息をついた。

弱音なんてめったに吐かない杏も、さすがに落ち込んでいるようすだった。




今朝はなんとなくグランドに行きたい気分だった。


陸上部の朝練があるのも、杏は知っていた。





だけど来た。




杏のいるところから一番近い位置で、3人の女の子たちが一列にならんでクラウチングスタートの構えをしていた。



彼女たちが短距離の選手だと杏にはすぐ分かった。



杏も、彼女たちと並んで走っているはずだった。


そして、きっとその中の誰よりも速く走れていただろう。






膝のサポーターをそっと撫でる…。


杏の頬を一筋の涙がつたった。




「やばっ…」

思わず声がでた。杏は慌てて目をこする。






「あっ…」



後ろから誰かの声がした。


誰だかはすぐに分かった。




忘れもしない…

この声は、







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