君への距離
「ラスト一本!!」
麻耶が言った。



杏は誰よりも元気な声で返事をすると、素晴らしいスタートで走り出した。



杏の走りに麻耶や他の陸上部のみんなも見入っている。




(あの日…)

翼が出逢ったころの杏を思い返していた。



(あの日、杏ちゃんは陸上部の練習を見つめながら一人で泣いてた。


サポーターで固められた痛々しい膝を抱えるようにして…)




翼は胸がしめつけられて苦しくなってきた。



(なんであんなに強いんだろう、



僕なんかよりもはるかに大きな爆弾を抱えてるはずなのに…



いつもの笑顔で、あんなに楽しそうに走っている!)




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