君への距離
ガチャッ


マサキが霊安室の扉を開けた。

ケンイチの実家は島根なので、両親が来るまでここで待つことになったのだ。





「マサキ…杏!?」

マサキの後ろにいた杏を見てリョースケはびっくりしてふたりを外に追い出した。


「杏連れて来るなって言っただろ?」
リョースケはマサキにつめよった。


「…だって」


「リョースケ!あたしもケンちゃんに会いたいよ…」


「でも…事故で…」


「どんなになっててもケンちゃんはケンちゃんだよ!」




ガチャッ


シオが出てきた。

「ケンイチも…きっと杏に会いたがってると思う。」




マサキ、
「本当に大丈夫なのか?」


杏、
「大丈夫…」









杏はゆっくりとドアを開けた。




部屋の中央にベッドがひとつ置かれていて、その周りを囲むように4つの丸イスが置かれていた。

アツシと翼が座っていた。





入ってきた杏をふたりは心配そうに見つめていた。



「……」

杏は翼が出してくれたイスに座った。


ベッドには、ケンちゃんが…


変わり果てたケンちゃんが横たわっていた。


目をおおいたくなるような衝動を抑えながら杏はまだ原型をとどめている右手をそっと撫でた。







上向きに寝かされたケンちゃんの顔は左半分がなかった。ガーゼで隠されてはいたが、明らかに隠されている面積が小さすぎた。

左半身は焼け焦げているようだった。
見覚えのある白いジャージが、溶けて固まっていた。

ぶつかったトラックのガソリンが引火したそうだ。


右半身…とくに右腕が他に比べてはるかに傷が少なかった。





杏はそっと微笑みながら言った。


「ケンちゃん、右腕…守ろうとしたんだよね?




野球…大好きだったもんね?




痛かったね…


熱かったねぇ…」

杏はこらえきれずに泣き出した。





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