君への距離
「そんな…あたし…」


「ほら、もう泣かないで…」
ケンちゃんのお母さんは杏をそっと抱きしめた。

「あなたが自分を責めたり、泣いたりしたら健一だって辛いと思うの…

だってね?」

意地悪い笑みを浮かべてささやくように言った。


「健一、あなたのこと大好きだったんですもの!」



シオ、
「まじっすか?」

アツシ、
「あれは分かりやすかったやろ―」




「うふふ、昔っから何かと分かりやすい子だったもの!」






「じゃあ、そろそろ…」

ケンちゃんのお父さんがそう言って立ち上がった。



「あっ、待って!


最後にね、わたしたいものがあるの…」

お母さんは持っていた紙袋から何かを取り出した。


Lと青い糸で大きく刺繍されたレッドストロンガーズの帽子だった。



「あの子の部屋を片付けてたときに見つけて…

よかったらあなたたちに持っててもらいたくて…」




杏は帽子を受け取ると大事そうにそれを抱きしめた。


「これは…?」


帽子の裏に何か書いてある。


見覚えのあるきたない字で力強くめいっぱいに書かれたその言葉…



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